貸店舗のエンターテイメント性
格差の拡大は見せかけなのか、それとも本当なのか。
格差論議が再び熱くなってきた。
朝日新聞社が二OO五年一二月からO六年一月にかけておこなった全国世論調査の結果によると、七四%のひとが「所得の格差が広がってきている」とおもっており、そのうちの七割がこの格差の広がりを問題だとおもっているという。
一億総中流社会といわれ、だれもが努力をすれば今よりよい生活が手に入ると考えた日本の社会がいま大きく変わろうとしている。
本書では、この格差の拡大という現象を、雇用形態の多様化との関連で考える。
経済のグローバル化にともなうコスト競争の激化は、不安定な就労形態の仕事を生み出す。
それは先進国に共通にみられる現象である。
それでは、すべての先進国で所得格差の拡大がみられるのか、というとそうではない。
その固の法制度や社会システムのあり方、あるいは社会固有の慣習などによって、それが社会にもたらす影響はかならずしも同じではない。
経済のグローバル化にうまく対応している固とそうでない固とはどこが違うのか。
経済のグローバル化が求める(変化に対する)柔軟性を、社会にどう取り込み、その痛みとメリットを分かち合うのか、その分かち合いのあり方の違いにあるのではないだろうか。
不安定な仕事をたくさん生み出すことで、コストを削減し、競争力をつけるのか。
保障のある仕事のなかに働き方の選択肢をふやすことでそれに対応するのか、社会にもたらす影響は大きく異なる。
経済のグローバル化にうまく対応し、経済のパーフォーマンスのよい国では、正社員の働き方を柔軟にし、非正規から正規への移動を進めている国が多い。
ここでいう正社員の働き方を柔軟にすることがワ−クライフバランス施策とよばれるものである。
本書のタイトルであるワ−クライフバランスとは、仕事もプライベートもともに充実させる働き方や生き方を意味する。
その双方があって人生ははじめて充実する。
働くことに対する報酬はお金だけではない。
家族をかかえ、お金を優先したいひともいれば、家族の世話や第二の人生を充実させるために、仕事をすこし減らしたいひともいる。
時間を優先させた分だけ報酬は減るが、報酬を時間でもらっているともいえる。
仕事の対価はお金だけではない。
時間でもらうこともできる。
それを自分なりに選択できる社会になったら、いまよりももっと多くの仕事が生み出され、より多くのひとが社会に参加することによって経済もよくなり、税収もふえる。
そのために、社会のしくみや、会社の人事管理制度や、わたしたちの価値観を見直していく必要があるのではないだろうか。
そう考えて書いたのが本書である。
そんなことをしなくても、O七年になれば、問題は自然に解決する。
団塊の世代が引退すれば、若者の就業機会も大幅にふえ、事態は改善されるという議論もある。
本当にそうなのだろうか。
つい最近も、「求人倍率が一倍を回復した」というニュースが新聞紙面のトップを飾った。
ところがよく読むと、求人の多くがパ−ト就労の増加による。
O五年二一月の有効求人倍率を就業形態別に見ると、パートが一・四一倍と一倍を大きく超えているのに対して、正社員は0・六五倍にとどまっている(「日本経済新聞」、二OO六年一月一三日夕刊)。
ちなみに、この数字は一をこえていれば求人数が求職者を上回っていることになる。
非正社員に大きく依存した社会が形成されつつあるのである。
景気が回復し、デフレ経済から脱却しても、現在の日本社会がかかえる雇用の質の低下や雇用形態聞の格差の拡大といった問題が解決されなければ、その回復も力強いものにはならないだろう。
二一世紀にどのような社会をイメージし、どのような社会を作るのか。
従来、共働き世帯がふえると、女性が仕事と家庭を両立できるように、保育所を整備したり、育児休業制度を整えたりして、働く女性を支援する施策を導入する国が多い。
これら三カ国は、それらの施策に加えて、男性をも含めた働き方そのものを変えようとした。
前者が家庭と仕事の調和(ファミリー・フレンドリ−)施策とよばれるのに対して、後者は仕事と生活の調和(ワ−ク・ライフ・バランス)施策とよばれる。
その導入の目的には共通点があるものの、それが働く女性だけでなく、従業員すべてを対象としているという点では新しい試みである。
イギリスでは、多様な働き方を職場に導入するにあたって、外部の人事コンサルタントを登用した場合には、政府がその費用の一部を助成するといったキャンペーンを実施している他方、デンマークはフルタイマーの法定労働時間を週三七時間にまで短縮した。
また、オランダは週三日や四日という日本の社会では非典型的な(非正規の)働き方とされている働き方を標準として、柔軟な働き方の選択肢をふやしている。
このように、フレックスタイム制度や在宅勤務など、働く時間や場所、さらには週の労働日数などに柔軟性をもたせることで、個人が自分のプライベートな生活と仕事をバランスさせられるように支援する施策は、ワ−クライフバランス施策と呼ばれ、いま先進国に広がりつつある。
仕事中心の社会から、仕事と生活のバランスのとれた社会へ、その経済政策を変化させてきた社会に身を置いてみると、豊かさとはお金だけによって実感されるものでないことに気がつく。
大切なのは、お金(所得)と時間(自由時間)をどうバランスさせるかということであった。
ひるがえって、わたしたちが住む日本という国をみてみると、仕事中心社会のままで、生活とのバランスが取れているとは言いがたい。
最近になってますますその傾向が強まってきているようにおもう。
それが、日本はお金の価値でみると豊かな国であっても、わたしたちひとりひとりがその豊かさを、生活のなかで実感できない理由なのではないだろうか。
イギリスの取材中に何度も聞かされたのが、イギリスも日本と同じ(労働時聞が長い)長時間文化をもつ国であるということ。
そのたとえとしてイギリス人がたびたび持ち出したのが、イギリスの労働者は、仕事をしていない間も、上着をいすの背もたれに掛けておくことを忘れないというたとえ。
長時間働くことが評価されるので、上司の目を常に意識して働いているイギリスの労働者の姿をユーモラスに描いている。
そのイギリスがいまワ−クライフバランスを積極的に押し進めているのはなぜなのだろうか。
一言でいえば、ひとびとの価値観の変化だという。
仕事か家庭かではなく、仕事も家庭もどちらもあって当然と考えるひとたちがふえている。
それに加えて、共働き世帯や親の介護の問題をかかえる人が増加して、企業がそれに対応せざるをえなくなったという事情もあるらしい。
経済のグローバル化とワークライフバランス社会は、仕事と生活の調和のとれた働き方は、経済のグローバル化の動きとは対極にあるようにみえる。
経済のグローバル化とは、コスト競争の激化を意味し、コスト削減のために、安く会社の都合で柔軟に活用される労働者をふやすというイメージが強い。
かならずしもそうではない。
これも取材のなかで、多くのひとから指摘されたことである。
グローバル化やそれにともなう規制の緩和によって、以前よりも柔軟に働くことが要求されるようになった結果、逆に個人のニ−ズにあわせた柔軟な働き方も導入しやすくなってきたからである。
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